湘南アイパークの森には私の知る限り、紅梅と白梅の木が一本ずつ植わっています。この白梅は武田薬品の湘南第三工場竣工記念として、いまから28 年前に植樹されたものだそうです。白梅のほうが近寄っただけでいっそうその香りに気が付きますが、華やいだ趣を兼ね備えた紅梅も捨てがたいものです。
後白河天皇第三皇女として以仁王の妹に生まれ、後に賀茂の斎院となった式子内親王(1153 年?~ 1201 年 1 月 25 日)。末法の世の皇女たちは高貴な身分のために結婚を制限され、ほぼ例外なく生涯独身を貫かざるを得なかった。晩年の式子内親王が病苦を過ごした邸内には白梅がいかにも心地よさそうに咲いていたのだとか。
「ながめつる今日は昔に成りぬとも 軒端の梅は我を忘るな 」(新古今集)
わが家の軒端に咲く梅よ、清麗な姿を眺めて香わしい匂いをかいでいる今日の日が昔のことになってしまっても、わたくしが死んだあとあとまでもあなただけはわたくしをお忘れにならないでください。
梅の歌ではありませんが、小倉百人一首の89 番目に選ばれている忍ぶ恋の歌は式子の代表作として知られています。
「玉の緒よ絶えなば 絶えねながらへば 忍ぶることの弱りもぞする 」(新古今集)
私の命よ、絶えるのならば絶えてしまえ。このまま生きながらえてしまえば、耐え忍ぶ力が弱まって心に秘めた恋がばれてしまいそうだから。
この式子の心に秘めた面影びとは一体どなたなのでしょう。式子が亡くなったその日からちょうど11 年後の同日に往生された法然上人という話もあるそうです。薫り高く咲く清澄な白梅の花に、病床で面影びとを感じて詠んだのかもしれません。